2010年2月、都内のギャラリーに再び小さな箱が集まった。昨秋から冬にかけてシリーズ化された「hako」展の新しい章である。展示室に入ると、大小さまざまな木箱や紙箱が壁面や台の上に整然と並ぶ。蓋を開けられる瞬間を待つかのように、どれも静かに佇んでいる。

前回の「箱がアートになるとき」展で示されたコンセプト——箱をキャンバス兼展示装置として扱うという考え方——は、今回も受け継がれている。ただし参加作家の顔ぶれが変わり、素材や技法の幅が広がった。ベテランから若手まで、それぞれが箱の持つ構造的な可能性を探求している。
箱をめぐる素材と技法
展示されている作品の多くは、箱の表面や内部に直接描画やコラージュを施したものだ。油彩で風景を描いた蓋、モノクロ写真を貼り込んだ内側、引き出しの中に隠されたドローイング——箱は単なる容器ではなく、開くたびに異なる表情を見せる。作家たちは木の質感や紙の厚み、金属の冷たさといった素材の特性を活かし、箱の内外に階層的な物語を構築している。
特に印象的だったのは、箱の内部に鏡を組み込んだ作品だ。蓋を開けて覗き込むと、自分の顔が作品の一部として映り込む。この仕掛けが、箱という閉じた空間を開かれた対話の場に変えていた。

本展では、箱の中に収められた小さな本や、ページをめくれる作品も展示された。箱と本は構造的に似ている——どちらも開くことで別の世界が現れる。作家たちはこの共通性を巧みに活かし、書物の装丁やページ構成を箱のデザインに反映させていた。ある作家は古い絵本のページを切り貼りし、箱の内部に立体の物語を作り上げている。
展示空間と鑑賞体験
ギャラリーの空間はあえてこぢんまりと構成されていた。照明は箱の内部を照らすように調整され、影が重要な役割を果たしている。鑑賞者は作品に近づき、蓋を開けたり引き出しを引いたりしながら、一つひとつに時間をかけて向き合う。以下のような多様な体験が用意されていた。
- 蓋を開けると現れる小さなジオラマ
- 引き出しの中に隠されたドローイング
- 箱の側面に刻まれた詩の断片
- ガラス越しに見える写真とオブジェの組み合わせ
来場者は箱を手に取り、じっくり観察していた。作家自身が会場に立ち、作品の背景や素材の選び方を説明する場面も見られた。こうした直接の対話は作品の理解を深めるだけでなく、作家の制作過程への興味を喚起する。
材料の選択と制作の過程
今回の展覧会では、素材そのものに対する意識の高さが感じられた。作家たちは古材や廃材、使い古された紙や布などを積極的に取り入れている。箱の傷や色あせが、作品に時間の層を加えている。ある作家は自身で紙を漉き、その紙で箱を覆うという手法をとった。別の作家は木片を組み合わせて箱の形を作り、その上にテンペラで細密な模様を描いている。
制作過程の一端を知ることができる資料も展示されていた。スケッチや試作の模型、使用した道具類が箱の横に並べられ、鑑賞者は作品が生まれる背景を想像できた。こうした展示の工夫は、ギャラリーが単なる発表の場ではなく、創作のプロセスを共有する場所であることを示している。
会場の奥に置かれた箱は内部に鏡が貼られ、見る者の姿が作品の一部になる。鏡越しに自分の表情が写り、思わず微笑んでしまう。また別の箱を開けたくなる——そんな仕掛けが、「hako」シリーズの特徴の一つだ。
