完成作品だけでは伝わらない、制作の痕跡。2013年5月、ギャラリーhakoで開かれた展示は、箱という小さな世界を生み出すまでの試行錯誤を、スケッチや試作、素材そのものを通して見せるものだった。出品作家たちが限られた立方体とどう向き合い、どんな技法を編み出したのか——そのプロセスに焦点が当てられた空間には、作家の手の動きや迷いまで感じられる。

素材を選ぶ——箱の中の色と質感
箱という限られた立方体で表現するなら、まず素材選びが勝負だ。今回の展示では、作家によって全く異なるアプローチが見られた。
- 和紙を手漉きし、幾層にも重ねることで奥行きを生み出した風景作品
- 布やフェルトを切って貼り合わせ、柔らかな質感で日常の一場面を切り取ったもの
- 金属や木片などの廃材を組み合わせ、工業的な雰囲気の中にユーモアを込めたオブジェ
- 写真を箱の内壁に貼り込み、遠近感を強調した空間表現
それぞれの素材が箱の中でどう振る舞うか、作家たちは事前に何度も試作を重ねたという。その過程で生まれた失敗作や修正の跡も展示の一部として公開され、来場者は完成に至るまでの道筋をたどることができた。
技法の試み——写真とコラージュ
箱アートの面白さは、異なる技法を自由に組み合わせられる点にある。5月展では、写真とドローイングを組み合わせたコラージュ作品が特に印象的だった。作家は箱の内部にあらかじめ撮影した風景写真を配置し、その上から手描きの線や色面を重ねる。すると写真の現実感と絵画の主観性が混ざり合い、不思議な世界が浮かび上がる。
また、箱を開けたときに現れる仕掛けとして、折りたたまれた紙が立ち上がるポップアップ構造を採用した作品もあった。蓋を開けると、切り絵の木々や建物が飛び出すように現れ、見る者を驚かせる。こうした仕掛けは、単なる装飾ではなく、箱という閉じられた空間が持つ「開く」という行為そのものをテーマにしている。

作家とギャラリーの対話
ギャラリーhakoでは、作家とスタッフが密に連絡を取り合いながら展示を準備する。2013年5月展の準備期間中も、作家が持ち込んだ試作品をスタッフが実際に箱に入れて見せ合い、サイズや照明の当たり方を調整する作業が繰り返された。箱をギャラリーの棚に並べたときの見え方や、来場者の視線の高さまで考慮した展示設計が行われている。
こうした丁寧な準備は、箱という小さな作品が持つ力を最大限に引き出すために欠かせない。箱をキャンバスに見立てた表現は、2010年の第1回展「hako」から続くギャラリーの伝統であり、毎回異なるアプローチで新鮮な驚きを提供している。同年3月に開催されたヌードをテーマにした展示「nude」では、人体の曲線を箱の中に封じ込める試みが行われたが、5月展は素材そのものの物語に焦点を当てることで、また別の方向性を示した。
会場での交流と気づき
会期中には、作家が実際に制作中の箱を前に来場者と技法について語り合うイベントも開かれた。来場者から「この素材はどこで手に入れたのか」「どのくらいの時間がかかったのか」といった質問が飛び、作家は一つ一つの工程を丁寧に説明する。そうしたやりとりの中で、作品の背後にある膨大な時間と手間が共有され、単なる鑑賞を超えた理解が生まれる。
展示の最終日には、作家が自らの制作ノートを公開し、箱の中に込めた思いを直接語る時間が設けられた。特に、ある作家が幼い頃の記憶を箱の中に閉じ込めた作品について語ったエピソードは、多くの来場者の心に残ったという。箱の中の小さな世界が、日常の記憶や感情とつながる瞬間——その語りに耳を傾けた人々は、作品に込められた時間と想いに触れたのだ。
