2015年10月、大阪・谷町のギャラリーhakoで「Zine Day Osaka Vol.1」が開催された。小さな箱のような空間に、作家たちが自ら制作した冊子——ジン——を並べ、訪れた人々と直接言葉を交わす一日限りのイベントである。ギャラリーhakoはもともと箱をテーマにした展示を多く手がけてきたが、この日は展示室そのものが、さまざまな「箱=ジン」で埋め尽くされた。
ジンという表現形式
ジン(zine)は、個人や少人数のグループが自費で制作・発行する小冊子だ。テーマも形態も自由で、写真集、イラスト集、コラージュ作品集、エッセイ、詩集など内容はさまざま。商業出版を経ずに作り手から読者へ直接届くのが最大の魅力で、ギャラリーhakoのような小規模なスペースとの相性も良い。
<
>
このイベントでは、作家たちが自らの机で作品を販売しながら、制作背景やこだわりの素材について説明する姿が多く見られた。来場者は実際にページをめくり、紙の質感や印刷の風合いを確かめることができる。そこにあるのは、完成品としてのジンだけでなく、作り手の手仕事のあとである。
素材とプロセス:ジン制作の実際
ジン制作において、素材選びは作品の印象を大きく左右する。Zine Day Osaka Vol.1に参加した作家たちは、それぞれ異なる方法で印刷と製本を行っていた。その手法をざっとまとめてみよう。
| 印刷方式 | 特徴 | 代表的な紙 |
|---|---|---|
| コピー機(モノクロ) | 低コストで手軽、少量部数に最適 | 普通紙、色上質紙 |
| リソグラフ(RISO) | 鮮やかな特色がのる、刷り重ねが可能 | 中質紙、クラフト紙 |
| オフセット印刷 | 高精細、部数が多い場合に適する | マットコート、アート紙 |
製本方法も多様だ。中綴じ(ホチキス留め)が最も一般的だが、一部の作家は糸綴じや和綴じを採用し、本としての佇まいを高めていた。表紙に布や和紙を貼ったり、コラージュを施したりと、一冊ごとに表情が異なる。
コラージュとイラストの融合
会場では、写真と手描きのイラストを組み合わせたジンや、切り貼りで構成されたページの連続が目を引いた。作家によっては、印刷後に手作業で着色やスタンプを加えるなど、一点物に近い作品も並んだ。ギャラリーhakoでは、これまでにも箱をテーマにした展覧会を数多く開催してきた。たとえば、小さな箱の中の世界:ギャラリーhako箱展2014年12月にみる素材と技法では、素材と技法に焦点を当てた展示が行われた。また、箱という小さな舞台——ギャラリーhako 2013年5月展の記録では、箱を舞台にした作品が並んだ。こうした展覧会で培われた「小さな枠組みで表現を極める」視点は、ジンというメディアにも通じる。
作家と来場者の交流
Zine Day Osaka Vol.1の大きな特徴は、作家と来場者の距離の近さにある。机を挟んで交わされる会話は、作品のインスピレーション源や制作中のエピソード、今後の予定にまで及ぶ。ある作家は、使用した紙の産地や印刷所の話を熱心に語り、別の作家は、ページごとに異なるインクの色味を指差しながら説明していた。
<
>
来場者の中には、複数の作家のジンをまとめて購入し、その場で読み比べる人もいた。ギャラリーの一角には簡易の読書スペースが設けられ、購入したジンをその場でじっくり鑑賞する姿も見られた。
自主出版が持つ可能性
ジンは、商業出版では扱いにくいニッチなテーマや実験的な表現を可能にする。また、少量生産ゆえに在庫リスクが低く、作り手が自ら販売することで収益が直接還元される仕組みも魅力だ。Zine Day Osaka Vol.1は、そうした自主出版の可能性を体感できる場だった。
ギャラリーhakoという小さな空間で、机の上に広げられた一冊一冊のジンは、まるで箱庭のような世界をのぞき込む窓だった。作り手の手触りがそのまま残る紙の感触、ページをめくるたびに現れる予期せぬ配色やレイアウト——それらはすべて、大量生産では決して再現できない個性のあらわれである。
会場で手に取った一冊一冊には、作り手の手仕事の痕跡がそのまま残る。大量生産の本では味わえない、生の個性がある。Zine Dayのようなイベントは、そうした手触りを実際に確かめられる貴重な機会だ。
