2015年11月、ギャラリーhakoは「アンリミテッド・エディション」と題した展覧会を開催した。通常、版画や写真作品はエディション(版)が限定されることが多いが、本展ではその概念を逆手に取り、あえて「無制限」をテーマに掲げた作品が並んだ。箱という小さな器の中に、無限の複製可能性と唯一無二の手仕事とを同居させる試みは、ギャラリーのこれまでの歩みの中でひときわ異色の企画だった。
ギャラリーhakoは箱をモチーフにした展覧会を数多く手がけてきた。2012年の「小さな箱の中の世界——『hako』展が描く、のぞき込む体験」では、鑑賞者が箱の中のミニチュア世界をのぞき込む行為そのものが作品の一部となるような展示が行われた。また2013年には「箱の中のミニチュア宇宙——2013年4月、素材と物語の新たな出会い」で、素材そのものが語る物語に焦点が当てられた。そして2015年秋、それらの延長線上にありつつも、まったく新しい発想の展覧会が登場した。
「アンリミテッド・エディション」という考え方
「アンリミテッド・エディション」とは、作品の複製可能性をあえて制限しないという考え方である。通常のエディション作品では、作家が点数を決め、署名や番号を入れることで希少性を生み出す。しかし本展では、その枠組みを外し、同じモチーフを異なる素材やサイズで展開する作家や、デジタル技術を用いて何度でも出力可能な作品を紹介した。来場者の中には「エディションが無制限だと作品の価値が下がるのでは」と疑問を抱く人もいたが、実際に作品を目にすると、その考えは覆された。同じデジタルデータから出力されたプリントでも、紙の質やインクの乗り方、作家の手作業による仕上げが加わることで、一点ごとに表情が異なるからだ。
出品された作品は多岐にわたる。絵画、写真、コラージュ、アートオブジェクト、そしてデジタルプリント。特に注目されたのは、作家自身が制作過程を公開し、来場者がその場でプリントを注文できるインタラクティブな展示だった。作家は来場者と対話しながら、その場でデータを調整し、好みの色味やサイズでプリントを提供した。これにより、作品は単なる完成品ではなく、作家と鑑賞者の共同作業として生まれることになった。
箱の中の「無限」—作品の多様性
箱の中に収められたミニチュアの世界は、これまでのhako展でもおなじみのスタイルだが、本展ではその「箱」自体がエディションを問わないオープンな形態をとった。例えば、ガラスケースの中に並べられた小さなオブジェは、作家が同じ型を使って制作したものの、着色や配置が一点一点異なるため、同じものは二つとない。ここでは「無制限」でありながら、唯一無二の存在感を放つ。
また、写真作品ではフィルムからデジタルへの変換プロセスそのものを展示した作家がいた。彼は一枚のネガから異なる露光時間や現像方法で複数のプリントを作成し、それぞれの微妙な色調の違いを比較できるようにした。来場者はその差異を楽しみながら、自分だけの一枚を選ぶことができる。これもまた、アンリミテッド・エディションの一つの形である。
素材と制作のプロセス
作家たちは様々な素材を駆使した。和紙、布、金属、樹脂、そしてデジタルデータ。制作工程を公開した作家もおり、来場者は作品がどのように生まれるのかを間近で見ることができた。例えば、ある作家は銅版画の技法を用いながら、プレートの状態を変えて何度も刷り、その都度異なる印象を得る実験を行った。別の作家は、デジタルデータを出力した後に手作業で彩色を施し、同じ図柄でも全く異なる雰囲気の作品を生み出した。
素材に関するこだわりは、ギャラリーhakoの展覧会に共通するテーマでもある。本展では、特に「版」という概念を素材レベルから問い直す試みが見られた。以下は、出品作家が用いた主な技法と素材の例である。
- シルクスクリーン:版を繰り返し使いつつ、色の重ね方を変えることで無数のバリエーションを生む。
- デジタルプリント( pigment print ):データは同一でも、用紙やインクの組み合わせで表情が変わる。
- 手彩色モノタイプ:一度刷った後に手で色を加えるため、同じ版からは二度と同じ作品が生まれない。
- オブジェの複製:型取りして制作するが、着色や組み合わせが一点ごとに異なる。

展覧会の意義とギャラリーの役割
「アンリミテッド・エディション」展は、作品の価値を点数ではなく内容で測る試みとして、多くの来場者に新鮮な印象を残した。ギャラリーhakoはこれまでも、箱という枠組みの中で多様な表現を紹介してきたが、本展ではその枠組みそのものを拡張する試みが行われた。限定性に依存しないアートの楽しみ方を提示したことは、コレクターだけでなく、初めてギャラリーを訪れる人々にも響いたようだ。
会期中には作家によるトークイベントやワークショップも開催され、参加者は実際に版を刷る体験をした。そこで生まれた作品はそのまま持ち帰ることができ、まさに「アンリミテッド」な体験となった。ギャラリーhakoは今後も、箱という器が持つ可能性を探求し続けるだろう。2015年11月のこの展覧会は、その新たな一歩として記憶されるに違いない。
